印鑑登録及び印鑑証明書の発行は、本人の意思によって行われることが大前提の制度ですので、本人の預かり知らないところで、第3者によって勝手に印鑑登録の印鑑を変更したり、印鑑証明書を交付することはできません。
では、それが公的な理由によるものだった場合はどうでしょうか?
公用請求と印鑑証明書の交付について
たとえば、公共事業のための用地買収などといった場合があったとします。
用地を買収するのは、国や国からの要請を受けた行政機関や業務委託を受けた民間企業となるでしょう。
いわゆる「公用請求」と呼ばれる制度ですが、実は住民票などでは認められていますが、印鑑証明書の交付は認められておりません。
つまり、用地買収などの不動産の売買契約においては、売り主の意思確認として、印鑑証明書の提出と実印による押印が役所(法務局)に求められますが、仮に売り主が一時的に海外にいたり、他府県にいたり、健康上の理由などで印鑑証明書の発行と実印による押印ができない場合に、本人に代わって行政機関などが、売り主に代わって印鑑証明書の交付を市区町村にお願いしたりできないということになります。
なぜでしょうか?
まず、印鑑証明書や実印が要求される契約書は、現在の商取引では、不動産や自動車など多額の金銭が伴う取引がほとんどです。
不動産の例で言えば、いくら公共性を持った請求であるとは言え、売り主本人の自らの意思による最終合意が必要であり、仮に、第3者が勝手に売主の印鑑証明書と実印を利用して売買契約を結んだ後に、売主が「そんな金額で売るなんて、認めない」と言い出したらどうなるでしょうか?
つまり、印鑑証明書と実印による押印は第3者が勝手に持ち出したものであり、売り主の意思とは違うとなると、係争や訴訟が後をたちません。
そうなると、本人確認の制度であり、契約者としての売り主の意思確認を担保するための機能としての印鑑証明書の提出と実印は何の機能も有していないということになります。
印鑑登録と印鑑証明書の交付、そして登録印鑑での押印という制度の背景を鑑みますと、いくら公用請求とはいえ、印鑑証明書の交付は認められないということが分かるかと思います。
印鑑登録原票の閲覧について
印鑑証明書の公用請求が認められないことを説明しましたが、印鑑登録原票と呼ばれる書面の閲覧につきましては、一般的な閲覧は禁じられているものの、例外は存在します。
その例外には
〇検察官や警察職員が該当者が登録した市区町村役場に令状を持って、捜査もしくは押収するとき(刑事訴訟法第197条)
〇裁判所命令、裁判所からの嘱託を受けたときなど(民事訴訟法第186条/刑事訴訟法第279条)
〇弁護士会から印鑑登録事項にかかる照会があったとき(弁護士法第23条の2第2項)
の3つがあります。
公用請求とは閲覧のための背景が異なっていて、閲覧の手続きのためには所定の手順を踏む必要があることがお分かりいただけるかと思います。
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まとめ
「印鑑証明書の公用請求の申請について」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
効用請求や印鑑登録原票の閲覧につきましてもこれほどまでに厳しい制限を設けている印鑑登録及び印鑑証明書の交付という制度がいかに重要なものであるかということも、再認識するには十分の材料ではないでしょうか。
今回の記事が、読者の方のお役にたてれば、幸いです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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