住宅や土地などを家族に無償で受け渡しをするといった、いわゆる「贈与」ですが、贈与による所有権移転登記や贈与契約書の作成などを進めるにあたって、“贈与する側に”必ず必要となるのが「印鑑証明書」と実印による押印です。
なぜ、印鑑証明書と実印による押印が必要なのかという点につきましては、法務局がその見解を明確にしていまして、平たく言えば、贈与する側が自分自身の意思を持って贈与していない場合、「不利益」を被ってしまう可能性があることを懸念した上での対応となっています。
下記は、法務局にある不動産登記に関するQ&Aからの抜粋ですが、「登記の申請が売主の真意によるものであって,虚偽の申請ではないことを証明するため」と明記されていることがお分かり頂けるかと思います。
不動産登記に関するQ&A-法務局- |
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土地や建物の売買による所有権の移転の登記を書面で申請する場合は,所有権 の登記名義人(所有者)である売主は,買主に所有権を移転して登記簿上の権利 を喪失するという不利益を受けることとなりますので,その登記の申請が売主の 真意によるものであって,虚偽の申請ではないことを証明するために,申請書に 売主の印鑑証明書を添付することとされています。 |
参考/不動産登記に関するQ&A -「印鑑証明書」はどのような申請に必要ですか?-
では、なぜ実印による押印と印鑑証明書がセットで揃うと、虚偽の申請でないと認められる可能性が高いのでしょうか?
実印による押印と印鑑証明書による2段の推定
ご存知の通り、印鑑には、認印や銀行印などがありますが、実印は、個人であれば住民票のある市区町村に、法人であれば登記した最寄りの法務局で登録し、その登録された印鑑が公的機関によって証明された印鑑であるという特徴を持っています。
参考/印鑑登録・印鑑証明ってそもそも何?
参考/実印ってそもそも何?登録方法から使い方まで徹底解説!
つまり、公的機関に登録された印鑑である実印と印鑑証明書が揃うということは、例えば、悪意のある第3者がどこかのハンコ屋さんでテキトーに買ってきて押したハンコとは異なり、本人が自分の意思を持ってその贈与や契約を行ったと推定されるということです。
そして、実際にそれが司法の判断として認められているのが「2段の推定」になります。
〇第一の推定
まず、最初の推定となるのが、契約書に記された押印が本人のものであると認められた場合、反証がない限り、本人の意思により推されたものであると推定されるというものになります。
第一の推定 -最高裁の判例・・昭和39年5月12日- |
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私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。 |
参考/求償債権等請求 -最高裁判所第三小法廷 昭和39年5月12日-
〇第二の推定
そして、2つ目の推定となるのが、民事訴訟法と呼ばれる法律による推定となっておりまして、本人の署名または押印があるときは、その契約が真正なものであると認められるという推定になります。
第二の推定 -民事訴訟法第228条- |
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(文書の成立)第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。 2文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。 3公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。 4私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。 5第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。 |
参考/第二百二十八条
この2つの推定は、過去、契約の真偽をめぐって争われた数々の裁判でも何度も争点となっていますが、その推定を崩すのは、明確な反証がない限り、かなり難しいというのが過去の多くの司法判断になっています。
詳しく知りたいという方は、「実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由とは?」を参考にして頂ければと思います。
つまり、贈与する側に実印と印鑑証明書を求める理由は、
「誰かに騙されたわけではなく、間違いなく本人の意思を持って贈与するんですよね?後であれは違うんですとか言い出さないですよね?」
というために行っているということになります。
贈与される側は実印も印鑑証明書も必要がない
ここまでは贈与する側が、悪意のある第3者などに騙されないように、実印と印鑑証明書を求める理由を見てきましたが、贈与される側は、土地なり住宅(あるいは株式や債券などの有価証券などを贈与される場合も同じです)を贈与されるにあたって、不利益がありませんので、実印も印鑑証明書も求められることは有りません。
ただし、例外のケースがありまして、それは複数人で遺産相続を行い、遺産分割協議書を作成する場合です。
なぜ、複数の人で遺産分割協議書を作成する際に、実印と印鑑証明書が必要になるかと言いますと、それは各人が本人の意思を持って、遺産分割協議書を作成したと推定するためです。
それが意味するところは、遺産分割を行う際に、その中の一人あるいは何人かが共謀して、自分たちだけが得するような内容で遺産分割協議書を作成し、自分たち以外の人間の押印については、その辺のハンコ屋でテキトーに買ってきたハンコで勝手に押して、他の人が不利益を被るといったケースを防ぐためです。
そうした背景があることから、仮に相続放棄するときは、不利益を被る可能性がありませんので、相続放棄の申請をするときは、実印や印鑑証明書を求められることはありません。
実印や印鑑証明書はどうやって準備すればいいの?
ここまで読み進めてきた方の中には、土地や住宅などを贈与する側という方や、遺産相続に絡んで贈与を複数人で受けるために実印と印鑑証明書が必要という方もいらっしゃるかもしれません。
では、実印を用意して、印鑑証明書を準備するためにはまず、何からはじめればいいのでしょうか?
順番から行きますと、まず個人の方は住民票がある市区町村を確認するのが最初の一歩になります。
印鑑登録は、各市区町村の条例により住民票がある場所でしかできないことになっていますので、まずは住民票がどこにあるかを確認しましょう。
それが、確認できましたら、印鑑の購入、印鑑登録、そして印鑑証明書の発行へと進むことになります。
それぞれについて詳しく解説したページをご用意しておりますので、参考にして頂ければと思います。
参考/印鑑登録から印鑑証明を発行するまでの時間と流れをざっくり見る!
実印や印鑑証明書の現状がよくわからない場合・・・
なお、以前に印鑑登録をしたが、実印がどこにあるか分からない・・印鑑登録カードがない・・・暗証番号が分からない…という場合があるかもしれません。
それぞれのケースについて、詳しく解説した記事もご用意しておりますので、参考にして頂ければと思います。
参考/印鑑証明書にどの印鑑を登録しているか分からなくなったとき
参考/印鑑登録カード(印鑑登録証)の暗証番号を忘れたとき・・
法人の実印と印鑑証明書について
個人の場合は、市区町村役場で印鑑登録を行う必要がありますが、法人の場合は、法務局にて行う必要がありまして、正確には、本店の所在場所を管轄する登記所(法人登記部門・支局・出張所)にて行う必要があります。
条件などについて詳しく解説した記事をご用意しておりますので、そちらを参考にして頂ければと思います。
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まとめ
「贈与を行うときに所有権移転登記や契約書で印鑑証明が必要な理由とは?」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。
何かと求められることの多い贈与ですが、実印と印鑑証明書が登記や契約書でその真偽を確実にするための重要な条件となっていることがご理解頂けたのではないでしょうか。
贈与をする人、贈与される人にとって、本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました。
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