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実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由とは?

実印と印鑑証明書が求められるケースには、不動産の売買、自動車の売買、相続、公正証書、金銭消費貸借契約の作成といった多額の金銭が絡む契約が多いという特徴があります。

そして、実印と印鑑証明書をちゃんと揃えて結ばれた契約は、一度結ばれてしまうと、それを無効にするのはかなり難しいという現実があります。

それは、契約当事者の本人が預かり知らないところで、代理人や身内、友人、見ず知らずの第3者などが、実印と印鑑証明書を悪用し、契約を結んでしまっても、その契約が有効になってしまう可能性がかなり高いということを意味しています。

そこで、今回は実印による押印と印鑑証明書が揃った契約書がなぜ、それほどまでに価値ある契約書になってしまうのかということについて、その根拠となる法律や判例などを見ていきたいと思います。

契約書が真正かどうかを左右する「2段の推定」

個人対個人、個人対法人、法人対法人、と相手が個人にしても、法人にしても、その契約書が私文書である場合、その契約書が本当に有効なものかどうかを裁判所などでは、「真正」かどうかという言葉で検証を行います。

そして、その契約書が真正であるかどうかを検証するために、重要になってくるのが「推定」と呼ばれる作業です。

つまり、契約者及び保証人などが、本当に自分の意思を持ってその契約を結んだかどうかが争点となってくるというわけです。

ただ、人間、その意思が本当であったかどうかを客観的かつ完全に証明するというのは、簡単なことではありません。

例えば、口頭などでは、人間は間違えることもありますし、また、気が変わることもありますし、中には、ウソをつく人もいたりしますので、口約束などは録音でもしていない限り、本人の意思であることは簡単に証明ができません。(状況によっては、何らかの圧力で、本人の意思とは異なることを言わされている場合もあります。)

つまり、契約が間違いなく本人の意思によって結ばれたということを証明するために、署名や押印によって、書面に残すという手段を、現在の商習慣ではわざわざ取っているということになります。

そして、その本人の意思によって行われた契約であるという裏付けを最も強い効力を持って、証明することができるのが、本人による署名、そして、実印による押印と印鑑証明書のセットでの提出ということになります。

では、実印と印鑑証明書のセットが本人により行われたと「推定」され、そして、その内容を覆すのが難しいのは、何故なのかと言いますと、それは2段の推定が働くからと言われています。

その2つの推定というのが下記の2つの推定になります。

〇第一の推定 -最高裁の判例・・昭和39年5月12日-

まず、最初の推定となるのが、契約書に記された押印が本人のものであると認められた場合、反証がない限り、本人の意思により推されたものであると推定されるというものになります。

私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。」

参考/求償債権等請求 -最高裁判所第三小法廷 昭和39年5月12日-

〇第二の推定 -民事訴訟法第228条-

そして、2つ目の推定となるのが、民事訴訟法と呼ばれる法律による推定となっておりまして、本人の署名または押印があるときは、その契約が真正なものであると認められるという推定になります。

(文書の成立)第二百二十八条 文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。

「2文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
3公文書の成立の真否について疑いがあるときは、裁判所は、職権で、当該官庁又は公署に照会をすることができる。
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。
5第二項及び第三項の規定は、外国の官庁又は公署の作成に係るものと認めるべき文書について準用する。」

参考/第二百二十八条

なぜ「2段の推定」が行われると、覆すのが難しいのか?

契約に実印による押印と印鑑証明書がセットになっていると、2段の推定が行われるというのは分かりましたが、では、なぜ、2段の推定が行われると、契約内容を覆すのが難しいのでしょうか?

なぜなら、その2段の推定が間違っていることを、訴えられた側が証明しなくてはいけないからです。

例えば、ある金融事業者からお金を借りた人がいなくなってしまい、代わりに契約のときに、実印と印鑑証明書を提出した保証人に借金の返済を求めたとします。

そして、その実印と印鑑証明書が実は、保証人が知らないところで勝手に使用されていたとしますと、その保証人がその事実を証明しなくてはいけないということになっているのです。

では、どうやって証明すればいいのでしょうか?

勝手に実印と印鑑証明書を使用した、肝心の人間の行方が分からない・・・いつどこで使われたのかもわからない・・・といった状況の中で、「2段の推定」を切り崩すのは、容易なことではありません。

保証契約については、実際の判例などを見ても、推定が崩れるケースもあったりしますが、2段の推定を崩すためには、必要な証拠の信ぴょう性も問われますし、それを必ず認めてくれるわけでもありません。

いかに、実印による押印と印鑑証明書による契約締結を覆すのが困難を伴うかが、お分かり頂けるかと思います。

認印や銀行印などでは「2段の推定」は行われない?

実印による押印と印鑑証明書が提出されている契約では、「2段の推定」が行われるために、その契約をくつがえすのが難しいという説明をここまでしてきましたが、では、認印や銀行印の場合は、どうなのでしょうか?

結論から言えば、契約書が真正なものであるという推定がされる可能性は低いと言えます。

確かに、商法には、下記の通り定めがあります。

「この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる。」

参考/商法第三二条

ただ、それが本人の意思によってなされた押印かどうかというのは、それだけでは、容易には判断ができません。

なぜなら、実印と印鑑証明書とは異なり、認印や銀行印は、本人の知らないところで、誰かが買ってきて勝手に使用されている可能性が十分に考えられ、本人の意思の下で結ばれた契約であるというのは、推定できないからです。

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まとめ

「実印と印鑑証明書が揃った契約書を無効にすることが大変な理由とは?」と題してお送りしてきましたが、いかがでしたでしょうか。

実印と印鑑証明書の持つ威力の大きさをご理解頂けたのではと思います。

当サイトでは、実印と印鑑証明によるトラブル予防策をまとめたページを複数用意しておりますので、興味のある方は「印鑑証明に関するトラブルの予防と対処」からお読み頂ければと思います。

最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。

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【筆者プロフィール】

浅井美津子

保有資格である宅地建物取引士(免許番号:941700070)・簿記1級・販売士1級を活かし、長年にわたり、不動産、自動車などの売買契約業務から会計業務まで幅広く従事。社会問題から生活に関わる話題などについて、独自の視点で執筆活動も行っています。